「適度な運動」の目安とは?免疫との関係・運動効果を専門家が解説
2021/05/18

健康な毎日を送るために重要な要素に「適度な運動」がよく語られますが、適度とは一体どの程度なのでしょうか。
新型コロナの流行で「免疫」への注目が高まっている今、免疫力の維持に欠かせない運動について早稲田大学スポーツ科学学術院教授の鈴木克彦先生に解説をお願いしました。個人差のある「適度」を見極めるポイントや、運動と免疫の関係をご紹介します。
目次
適度な運動が免疫力を高める
体内に病原体や毒素が入り込んだ時に抵抗して打ち勝つ力、また病的細胞が悪さをしないようにする防御の力を「免疫力」と呼んでいます。
特に感染症が流行している昨今は、身体の免疫系を高め抵抗力をつけることが自己防衛に繋がります。その方法のひとつとして、細胞を活性化させる運動の継続が推奨されているのです。
運動で細胞が活性化する
私たちは、運動をするときに酸素を取り込み、体内にある炭水化物、糖質、脂質などの栄養素を使ってエネルギーを作り出しています。運動によってエネルギー代謝が上がると、細胞だけでなく組織や個体にも活性化をもたらすことが考えられています。
めぐり(循環)が免疫力を助ける
運動することによって新陳代謝が高まり、全身の血液循環が促されます。すると、血液やリンパ液の中にある免疫細胞が身体中をパトロールするようになり病原体やがん細胞を発見しやすくなるという、生体防御の働きが高まります。
免疫はストレスに弱い?
軽い運動であれば、血液循環が良くなり体温が上がるので身体にとってプラスになります。ところが、やりすぎると逆にストレスになってしまうことも。
運動後の疲労や筋肉痛は、やりすぎのサインと受け取ることができます。
過度な運動によっては、コルチゾールというストレスホルモンが発生します。ステロイドホルモンとも呼ばれ、有害な炎症を抑える働きがありますが、増えすぎると本来病原体を攻撃するはずの免疫系の機能を抑えてしまうこともあります。すると感染症への抵抗力の低下にもなりかねません。
免疫が適度に保たれているのが健康な状態です。弱すぎては感染症に抵抗できず、強すぎると自己免疫疾患やアレルギー疾患を引き起こしてしまいます。
肥満が免疫の大敵!
一般的に肥満が増えてくるのは、40代以降の中高年と呼ばれる世代です。摂取したエネルギーが使われないと脂肪として体内に蓄積され、ひどくなると肥満になってしまいます。この脂肪が、ときに「炎症性サイトカイン」などといった身体に免疫異常を起こすような有害な物質を作り出し、動脈硬化をはじめ様々な生活習慣病を引き起こすことも。
このような事態を避けるためには、運動することで体内にエネルギーが過剰に蓄積されないようにしなければなりません。
「適度な運動」の目安や継続時間とは?
健康維持に効果的なのは、太りすぎに注意し免疫機能が正常に働くような「適度な運動」の習慣化です。どの程度の運動が「適度」だと言えるのかは、
個人差があります。「適度」のひとつの目安として、疲れや痛みの感覚を基準にしてください。
運動はどのくらい継続すべき?
一般的な「適度な運動」の目安は、20〜60分程度の運動を週3回ほど継続して行うことです。
運動を始めて20分程度の間、エネルギー源として使われるのは体内の糖質。20分を経過する頃を境に、次第に脂質が使われるようになります。
このことから、一般的に肥満を予防するには一回あたり20分以上の運動をするのが効果的だと言われています。
「適度な運動」の強さは?
軽く息が弾む程度で、話をしながらできる運動を「適度な運動」の目安にしてください。
心拍数が120を超え息が上がるような運動になると、身体の中が酸欠状態に。エネルギーの生成に酸素補給だけでは足りなくなると、乳酸が出はじめます。乳酸によって血液が酸性に傾くことで、疲労を感じやすくエネルギー効率が悪い状態になってしまいます。
運動後は「回復時間」も考えよう
20代の若い世代でトレーニングを行なっている方であれば、より強い運動にも耐えることができますが、日常的にあまり運動習慣のない方がいきなり激しい運動をすると、膝や腰を痛めることがあるので注意が必要です。
筋肉痛などの痛みは、すなわち筋肉が壊れている状態と言えるので身体にとって危険信号です。一方で、身体は組織を壊しながら適応させて強くなっていくという側面も備えています。
筋肉をつけるためのトレーニングであれば、筋肉痛のときは回復時間も考慮した方が良いでしょう。そうしないと、組織を壊し続けることになってしまうので、筋肉が思うように増えません。同様に、運動の疲労感があるときは回復時間を設けることをおすすめします。
運動に適した時間はある?
運動に最適な時間帯については、肥満を解消するための脂肪分解の度合いを基準にすると、全ての性別・年齢に当てはまるような明確な実験結果は得られていません。
ライフスタイルに合わせて運動しやすい時間帯に継続して行うのがよいでしょう。
「適度な運動」3ステップの効果
「適度な運動」を継続することで、身体にプラスの効果が生まれるでしょう。病気にならないための体づくりが、外見の変化だけでなく内面の健康にも影響を与えます。
「適度な運動」の3ステップ①継続する
一度きりの運動を行うだけでは、あまり効果がありません。繰り返し行うことで、筋力がつき心肺機能が高まっていきます。
継続性によって運動効果が左右されるので、ライフスタイルの中で無理なく続けられる運動を見つけることが大切です。
「適度な運動」の3ステップ②少しずつ体力がつく
「適度な運動」とは言え、身体に少しは負荷がかからないとトレーニングになりません。いつも無理のないよう自分の体力に応じて、疲労や痛みが出ない範囲で運動を継続しましょう。
無理のない運動を繰り返すことで、少しずつ体力がついてきます。基礎体力がなくても散歩時間を増やしたり、早歩きにしたりと少しずつできることを伸ばしていきましょう。
「適度な運動」の3ステップ③疲れにくくなる
適度な運動を継続することで体力がつくと、身体が疲れにくくなっていきます。すると、仕事に集中できるようになり効率も上がるでしょう。
体力がつくと、色々なことに挑戦したいという前向きな気持ちにもなるのではないでしょうか。
また運動によって脳が活性化され、神経細胞を増やすような物質が増えてくるので、うつ病や認知症の予防にも効果的だと言われています。
実践!「適度な運動」のアイデア
適度な運動の種類に決まりはありません。ご自身の中で無理なく継続できる運動を見つけてみてください。ここでは明日からでもはじめられる簡単な運動をご紹介します。
適度な運動のアイデア①ウォーキング
例えば体力が低い方は、気分転換の散歩でも十分な運動になります。体力のある方は、ジョギングやランニングなど各自の体力に合ったものを選んでください。
忙しくて運動する時間がない方は、通勤時にエレベーターを使わず意識的に階段を使うのもおすすめです。デスクワークであれば、仕事中に首や肩を回すストレッチだけでも脳の血流改善が期待できます。
適度な運動のアイデア②ヨガ
ロックダウン中でも自宅で気軽に行えるヨガは、世界的に人気が高まっているようです。
運動強度があまり高くないので、運動を始めるための導入としておすすめです。身体活動量が増えて肥満対策に効果的とされています。
危険性の低さから運動初心者にも勧められますが、なかには無理な動きをするようなヨガもあるので、怪我をしないようご自身と向き合いながら実践してみてください。
適度な運動のアイデア③筋力トレーニング
最近は女性の間でも、筋トレの人気が高まっていますね。筋肉には熱を発生させる機能があり、体温が上がると糖だけでなく脂肪の分解を促しエネルギーとして使いやすくなるので、ダイエットに効果的でしょう。
筋トレは週に2〜3回程度が適当です。回復を待って少しずつ負荷をかけ、徐々に筋肉を強くしていくというプログラムを組むようにしてください。
また、筋肉量を増やすことで改善される病気があります。
例えば、血液中の糖分が増えすぎてしまう糖尿病の場合。血中の糖分が筋肉に取り込まれ、血糖値が下がる効果が実証されているので、糖尿病の患者さんは筋肉をつけることが治療の一環にもなっています。
高齢者のなかには、加齢とともに筋肉量が減っていく「サルコペニア」が起こってしまう場合があります。足腰が弱り自立できなくなってしまう状態を防ぐ一定の筋力の維持が、健康な暮らしを支えるのです。
適度な運動のアイデア④ラジオ体操
ラジオ体操やテレビ体操であれば、特別な器具が要らず場所もとらないので部屋の中で行う運動としておすすめです。
早起きをして、決まった時間にラジオ体操を行うことで、メリハリのある一日に。夜中まで仕事をしなくてはならない方にも、生活の好循環を生むきっかけになるでしょう。
適度な運動の継続が心身の健康を助ける!
心身ともに潤う適度な運動は、在宅期間が続く今の時代に欠かせないセルフケアのひとつでしょう。お子さんと一緒に始めることで、コミュニケーションもはかれます。
継続は力なり!それぞれが無理のない範囲で、リフレッシュできる適度な運動を見つけてみてください。
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