ダムって何のためにあるの?水から電気をつくる水力発電とは【親子で学ぶエネルギーの未来】
2020/10/14

水は、私たちの暮らしに欠かせないものです。身体に取り入れるだけでなく、生活の知恵として、水のエネルギーを利用し、たくさんの電気をつくる水力発電が世界中で行われています。
今回学ぶのは、この「水力発電」。いったい、どのようなしくみで、電気はつくられているのでしょうか?発電方法には、大きくて迫力満点のダムだけではなく、さまざまな種類があるのです。
水力発電のしくみとダムの働き
はじめに、水力発電の基本について解説します。水の力でどのように、どれくらいの電気を生み出しているでしょうか?
水の力でどうやって発電するの?
水力発電は、水が高いところから低いところへ移動するときの力を利用します。高低差を使って勢いよく水を流し、発電用の水車を回転させて発電機を動かす、というしくみです。水力発電は大きなダムが印象的ですが、近年では中小規模の水力発電施設も増えています。
ダムだけじゃない!水力発電の種類とは?
ダムのように水を溜めるだけではなく、水をせき止めてくみ上げたり、さまざまな方式で稼働できるのが水力発電の特徴です。以下で詳しくみていきましょう。
流れ込み式(自流式)
川などをせき止めず、自然な水の流れをそのまま発電所に引き込んで発電をする方法です。水が多い時期、少ない時期によって発電量が増減することが特徴です。
川の流れを利用するので、発電所の建設コストを下げられることがメリット。アフリカの一部地域では、この方法で一国の電力需要の大部分を担っています。
調整池式
調整池に貯水し、水量を調節しながら行う水力発電方式。調整池には、夜間や週末など、比較的、電力消費の少ないときに発電量を抑えて調整池に貯水し、電力消費が大きくなる日中は水量を調整しながら発電量を増やしていきます。1日、あるいは1週間単位で発電量を状況に合わせて調節できることが特徴です。
そのため天候の変化や電力需要の変化にも対応しやすく、流れ込み式よりも効率的に発電することができます。
貯水池式
ダムを利用した発電の方式です。ダムによって河川をせき止め、溜まった水を発電に利用します。雨の多い季節に貯水し、水が少ない時期に放流をすることで発電しています。
河川を完全にせき止めて、水の流れを自在にコントロールすることでき、放流された水は河川に戻り、最終的には海へと注がれます。
河川が短い日本ではダムの建設場所が限られ、周辺が水没したり、建設により環境が変化したりすることからダム建設は簡単ではありません。
揚水式
発電所の上流と下流に水を貯める調整池をつくり、水を上げ下げすることで発電します。電力の消費が多い昼間は、上流の池から水を落とし、夜間は他の発電などで余った電力を使って下流に溜まった水を上流に引き上げます。
また水力発電は、構造物の種類でも分類することができます。
ダム式
ダムをつくって河川をせき止めて池を造り、落差を利用してダムの真下にある発電所の水車を回して発電します。この方式は、貯水池式と調整池式を組み合わせるのが一般的です。ダムの水が減ると落差が小さくなるので、発電できるエネルギーも小さくなってしまいます。
水路式
河川の上流に水を引き入れるための取水堰(しゅすいぜき)を造り、引き入れた水を河川の流れよりも傾斜がゆるい長い水路に通して、十分な落差が取れる場所まで導いて発電する方法です。水路へ通した川の水は最終的に元の川に戻るようになっています。
ダム水路式
ダムと水路式の良いところを組み合わせた水力発電の方法です。ダムでせき止めた水を、水路で落差のある場所まで導いて発電をします。ダム式に比べると高い堤防を造る必要がないため低コストで済み、水路式に比べると水の勢いを確保できるためより多くの発電量が期待できます。
水力発電でどのくらい発電できるの?
2012年時点で、日本国内にある水力発電の設備容量は、合計約2,076万kW。もし、この設備で100%の発電を一年間続けると、一般家庭で約5,051万世帯分の年間電力消費量に相当する、約1,819億kWhに達します(※1)。
しかし、水力発電は河川の流量や貯水量の変化に左右され、堆積する土砂によっても発電量が左右されてしまいます。さらに、ほかの発電設備次第では発電量の調整にも使われるため、結果的に利用率は39%にとどまっています(※1)。
2019年時点では、日本の全発電量に占める水力発電の割合は7.4%。太陽光発電と同程度の発電量になっています(※2)。
※1)みるみるわかるEnergy「水力発電のしくみ」
※2)認定NPO法人環境エネルギー政策研究所「2019年(暦年)の自然エネルギー電力の割合」
どこで発電しているの?
▲岐阜県徳山のダム湖
水力発電に適しているのは、大量の水が確保できる山間地です。2020年現在、日本で最大の貯水量をもつ岐阜県の徳山ダムの貯水容量は、6億6000万立方メートルとなっています(※3)。
日本のダムでもっとも有名な富山県の黒部ダムの貯水容量は、徳山ダムの3分の1程度です。しかし黒部ダムは、水をせき止める堤防「堰堤」の高低差では日本一。下から見上げたときには、日本でもっとも迫力のあるダムの姿を見ることができます。
※3)独立行政法人水資源機構「徳山ダム管理所」
水力発電のメリットと課題
水力発電にはダムや河川が利用され、さまざまな構造のしくみがあることがわかりました。では、水力発電のメリットは、どんなところにあるでしょうか。水が豊富な日本で、総発電量の一割に満たない理由とは何でしょう?
クリーンな再生可能エネルギー
地球上から枯れてしまうことのない水を利用した水力発電は、再生可能エネルギーのひとつです。発電時には、地球温暖化の原因とされている二酸化炭素を含む温室効果ガスをほとんど排出することがなく、大気汚染の原因となる酸化物を排出することもありません。よって自然の循環を利用したクリーンな発電方法になっています。
また、水力発電は貯水することができるので、太陽光発電や風力発電のように、気象条件が限られる再生可能エネルギーに比べて安定的な発電を可能にしています。
⇒「再生可能エネルギー」に関する詳しい情報はこちらへ
水力発電は効率がいいの?
それぞれの資源を利用した発電方法では、資源の100%が電気に変換されるわけではなく、発電する過程で少なからずロスが生じます。水力発電の変換効率は80%で、ほかのあらゆる資源と比べてもっとも効率が良いことがわかっています(※4)。
※4)関西電力「水力発電の概要」
日本は水力発電に向いているの?
年間の降水量が多く、山々が連なり起伏に富んだ日本の地形は、高低差を利用する水力発電に向いている土地といえます。エネルギー資源の多くを輸入に頼っている日本では、貴重な純国産エネルギーとして期待されています。
水力発電はコストがかかる?
燃料がいらない水力発電は、ほかの発電方法と比べて発電や管理、維持に必要なコストが安いことが特徴です。
しかし、大きなダムは建設費用がかかってしまいます。ダムに適した場所は山間地になるため送電コストもかかり、さらにダムの建設には周辺環境への影響や、住民の理解が必要になるため、クリーンな再生可能エネルギーといえど普及は容易ではありません。
ダムは大雨時にはどうなるの?
日本全国に約2,755あるダムでは、それぞれが水道水用、農業・工業用、水力発電用など用途が分けられています(※4)。大雨が降って増水した場合、下流の川があふれないように水量を抑える洪水調節の役割を担うのは、治水ダムと呼ばれるダムです。
台風などの接近で大雨が予想される場合、3日前から事前放流を行い、大雨が降ったときのために水量を下げて氾濫を起こりにくくしています。洪水調節をするためのダムは、全国のダムのうち4割程度でしたが、政府は近年の度重なる豪雨被害を受け、残り6割のダムも洪水対策に活用できるよう対策強化をはじめました(※5)。
※4)一般財団法人 日本ダム協会「集計表(統括表)」
※5)日本放送協会「新たな『ダム洪水対策』の課題」(時論公論)
水力発電をより身近に
▲富山県黒部ダム
現在、日本に水力発電所は、1,750カ所(※6)。ダムは、2,755もあります(※7)。地形や土地に合わせていろいろな設備が用いられ、多様なダムの働きが私たちの暮らしを支えているのです。
その迫力から、いくつかのダムは観光地にもなっていますね。近くの川の上流に、水力発電所や、ダムがあるか、ぜひ探してみてください。再生可能エネルギーでもある未来のエネルギーを、より身近に感じられるかもしれません。
※6)経済産業省・資源エネルギー庁「2020年度 統計表一覧」
※7)一般財団法人 日本ダム協会「集計表(統括表)」
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